//我輩も猫である//

vol.009

・スターティング・ツーラーン・イングリッシュ-2

■「英会話は教えない」とセンセイは言う。「会話は外人とやりなさい。外人から習いなさい」と言う。いくら英語を教えるためとはいえ、自分が日本人相手に英語をしゃべるのは苦手(嫌)で、勘弁してもらいたいのだと。下手な英語の相手をするのは苦痛なのだと。学生や弟子には会話文を声に出しての発声練習は、徹底的にやらせるが、言葉のやり取り、まあキャッチボールのようなものだが、下手な奴とのキャッチボールはイヤなのだと言う。センセイが常連のさるピアノバーで一杯やっていると、時々、エーゴらしき言葉(イングリッシュでないことは確かなのだそうで)話しかける日本人がいるらしく、これには閉口すると言っている。まるっきりジャパニーズ・イングリッシュ(ガイジン連中はジャプリッシュとかジャパングリッシュとか呼んでいるらしいが)でやられると、吐き気がするほど酒がまずくなるらしい。

■私も、時々、日本人同士で下手な英語を使っているのを見かけるが、珍妙な光景である。発音もイントネーション(intonation)もリズム(rhythm)もあったものではない。文法もひどいし、セリフの言い回しが珍妙で、これが英語かいなと思うようなセリフが出てくるから、面白いといえば面白い。これでは変な英語をお互いに覚え合っているのと変わらない。 まるで下手になる努力を、一生懸命にやっているのと同じで、まことに奇妙な感じがするのだと。センセイもよく言うのだが、「ロール・プレイイングなどと言って、日本人の学生同士で対話をさせている先生(外人教師でも日本人の教師でも)がいるが、あれはナンセンスだ。対話の相手はネイティブ(native)か、それに準ずるフルアントに(fluently, 流暢に)英語をしゃべれる人とやらなければ、本当の意味での上達は期待できない」と。日本人同士で対話をさせるのは「教師の手抜きだ」と言うのである。学生が直接外人教師と対話できないのなら(生の対話相手として)、録音テープを相手に会話を練習する方が、効率がいいかも知れないと。学生がいくら変な、ひどい英語で話しかけても、先生は正しい発音で正しい英語で返答するから勉強になるので、返ってくるものが自分と同じ変な英語だったら、何の役にも立たない。「逆に害になると言ってもいい」とセンセイは言う。私もこれには、全く、異論はない。

■センセイの話だと、英語の音韻体系(sound system)には三つの要素があり、第一は「発音」(pronunciation)で、それぞれの母音や子音をどう発音するかということ。二番目が「抑揚」(intonation)で、三番目が「リズム」(rhythm)だと言う。二番目と三番目をまとめて「韻律学」(プロソディー; prosody)と専門的に呼ぶのだそうだが、音の高低(ピッチ; pitch)や強勢(ストレス; stress)、連接(ジャンクチャー; juncture)などのことだそうだ。「発音が下手でかなり訛っていても、イントネーションが少々おかしくても、リズムさえ狂わなければ、英語で相手をしてもいいが、リズムが狂うと、こっちまでおかしくなって、英語がスムーズに出てこなくなる」と言い「英語が上手い、アメリカ人と全く変わらない、などといくらおだてられても、所詮、俺にとって英語は外国語、ネイティブのように、相手の発音やリズムが狂っていても、自分の言葉までおかしくならないというところまでは、とても行き着かない」と嘆息していた。

■センセイも日本人と英語で話をするのを嫌がるが、日本に何年か住んでいるネイティブ(native English speakers)も、センセイ同様に「日本人と英語をしゃべるのはイヤだ!」と言う。英語の教師はそんなことを言っていられないので、仕事だからと我慢しているようだ。しかし我慢できなくなって、やめる人も多いのである。最も猫に英語でしゃべりかけるのは、ネイティブかうちのセンセイぐらいだから、私の方は、セーフ○○党である。

■センセイの長女も大学院を出て、今はアメリカで仕事をしているが、中一のときに習った発音訓練のお陰で、「まるでアメリカ人と変わらない発音だ」と皆が言うらしい。中一のころに、正しい発音をマスターさせれば、こういう成果が現れるのである。

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