//我輩も猫である//
vol.015
軍隊には使えなかった日本語
■私は猫だから、軍隊にとっては「全くの役立たず」である。ところが、犬は軍隊でも役に立つ。軍隊で猫を使ったと言う話は、人間の歴史の中で、一度も聞いたことがない。
■犬には多くの種類があり、軍隊ではシェパードのようなたくましいのが好まれるようで、国境のパトロールなどでは(特にドイツなどでは)、よくこの種類の犬が使われる。猫にも多くの種類があって、シャム猫とかペルシャ猫というと「高級な猫(?)」ということになっているが、私のようなトラ猫(黄色っぽいのではなく、こげ茶色なのだが)の雑種に言わせてもらうと、純粋種と呼ばれる猫は、生き馬の目を抜くような今の世の中では、金持ちに飼ってもらう以外に、生存競争に打ち勝ってはいけないのである。トラ猫、三毛猫は、全員(全猫?)、雑種であり、日本人も(?)我々同様に雑種だから、意外に強いのである。
■日本人が戦争で負けたのは(外国と戦って)、あのアメリカに嵌められた大東亜戦争(センセイはこう呼ぶ)だけである。まあ、これはセンセイの受け売りだが、私に言わせれば、日本人は一旦戦(いくさ)となれば、大いにその力を発揮するのである。日本人は戦に直面すれば、今の自衛隊員でも、必ず、「勇猛に戦うであろう」と先生は言う。「俺だって軍隊に入って戦うぞ」と言うところをみると、最近は、特に軟弱になったと思われる日本国民でも、一旦緩急あれば、国家の存亡をかけて多くの若者が戦うだろう。私もそう信じている。
■軍隊の話になったので、「軍とことばの関係」について少々考えてみたい。軍隊を動かす「ことば」として、果たして日本語が適しているかどうかということである。日本語というのは、どうも軍隊で使うには不便なことばであるというのは、私にもよく分かる。日本語には「命令的表現は無い」と言っても言い過ぎではないくらいで「立て」、「座れ」、「行け」、「やれ」、「食べろ」、「寝ろ」、「来い」などと、日常会話ではこのような命令表現を使うことはない。犬に対してだって「お座り」、「お手」などと敬語の「お」をつけて言うぐらいだから、相手が人間様なら、絶対と言ってもいいぐらい命令形は使わない。すべての命令的表現は「お頼み申します」、「〜してください」のように「お願いする」ような形を取る。"Please sit down. Would you sit down? " のような表現になり、"Sit down."(座れ)、"On your feet!" (立ち上がれ)、"Move it!" (行動開始せよ)のような表現にはならない。英語では、軍隊ばかりではなく、一般的に命令形を会話の中でよく使う(最後にその例をリストアップするので参照されたい)。
■英語にはこのような命令表現が豊富なので「軍隊用語」には事欠かない。鉄砲の弾が飛んでくるので、弾に当たらないように「頭をひょいと下げて身を低くしろ」と言いたいとき英語では "Duck!" とひとこと言えばすむが、日本語でこれをひとことでどう言うのか、この語学の天才の吾輩がいくら考えても分からない。「頭を下げろ!身を低くしろ!身をかわせ!」でもおかしい。自衛隊では何と言っているのか知っている人がいたら教えて欲しい。
■明治になって近代的軍隊を作ったとき、軍隊で使うことばを、新たに創作しなければならなかったというから、日本語を話す(使う)日本人が大昔から軍国的(militaristic)、好戦的(belligerent)だという通説には同意できない。山本七平氏が「日本語では戦争はできない」と言うのもうなずける。「守護や自生が明確で無い日本語では、軍隊の運営も戦争もできない」ので「特別な軍隊用語が作られた」のだと七平さんが言っていると先生が言う。前出の七平氏の本(ある異常体験者の偏見)の中で、敗戦後、部下は「命令された」と証言し、上官は「命令していない」と証言して対立することがあっても、「部下が必ず負ける」のだと言う。なぜかというと「これには英語の『命令(オーダー)』『命令法(インペラティヴ・ムード)』『命令口調(コマンディング・トーン)』と言ったものとは全く別な、英語的発想では絶対に命令ではないのに、また、どう読んでも絶対に命令ではないのに、実際には命令に等しい拘束を持つ言い方が『軍隊語』にはあったと言うことが、大きな理由の一つなのである」のだと。今の自衛隊にも同じ問題が内包されているはずだとセンセイは言うのだ。今使われている軍隊語がどんなものであるのか、これに関する良い資料が手に入らないので困っているとセンセイは嘆いている。
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