我が英語渡世
第一章 ニューヨークは第二の故郷(ふるさと)
3- ワークホリックは日本人の専売特許にあらず -2
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私も若かったせいか、ウイスキーのオン・ザ・ロックを一晩に十杯以上飲んでいた。オン・ザ・ロック十杯も飲むとウイスキー一本分の量で、アメリカでは日本と違い、一杯の量が最低でもダブル、サービスの良い店ではトリプル分は入っている。これはアメリカの良いところで、サービスとは量を増すことだった。これだけの量を飲む時は、大抵ボップと一緒で、夜中の一時、二時まで終始仕事の話をしながら酒を飲むのである。
酒を飲んでも仕事の話しかしないのはボッブの悪い癖だったが、仕事を覚えるのには大変役に立った。私の方もなるべく早く彼から広告、マーケティングの知識を吸収しようと思っていたから、最初の六カ月間は結構楽しくやっていた。しかし、新しく吸収するものが徐々になくなってくると、毎晩、彼と一緒に出かけるのも苦痛になってきた。なんせ、仕事の話しかしないのだから。
こういう状態を一年も続けると、私の方も食傷気味だから、デートにかこつけて、彼の誘いを断ろうとするようになる。しかし、あと三十分だけ、あと十分だけという風に付き合わされ、しまいには本当にデートの相手を振ってしまうこともあった。とにかく、しつこい性格なのである。これが原因で二人の仲もしまいにはおかしくなってしまった。
ボッブ・クライアーは別にホモではないのだが、デートをしても、相手の女性に手を出そうとしない。手を出さないというのではなく、口説きかけて、相手がその気になると、最後には逃げ出してしまう。母一人子一人という環境に長くいたせいかどうかは知らないが、ホモに近い境界線上にいた。口達者で気のいい完璧主義者、職人気質の持ち主だった。
我々のWW&B社の仲間で、ドリス・トーバンという小柄のアイリッシュ系の女性プロデューサーがいた。彼女もどちらかというと、ワークホリックの一人で、ショー・ビジネス(芸能界)の入り口あたりで活躍していた。
プロデューサーもアート・ディレクター同様、外部の優秀な人たちをどれだけ知っているかによって能力が評価される職業だから、人との付き合いはすべて仕事の延長線上にある。タレントばかりでなく、CMプロダクション会社やその他の関係者を沢山知っていないと出来ない仕事だから、経験がものをいう。その上になにがしかのクリエイティビティ(独創力)がいる。
ドリス・トーバンは元々カール・リグロッドの秘書から彼の助手に昇格し、プロデューサーになった女性で、私のスポンサーが毎日生(なま)のTVコマーシャルを放映していた関係上、年中一緒に仕事をしていた。だから、彼女とも酒を飲む機会も多く、選挙の時などは、彼女が自分のアパートへ友人たちを呼んで開くパーティーには、必ず招待されるという仲だった。アメリカでは、選挙の日は酒類の販売が禁止されるので、選挙速報をテレビで見ながら、政治の話を酒の肴(きかな)にしてみんなで楽しむのである。
ドリスは当時、三十を一つ二つ越えた年齢で、未婚だった。男運にはめぐまれないらしく、好きになる相手がどれもこれもホモなのである。どうしてホモにばかり惚(ほ)れるのかわからないと、私にぐちをこぼしていた。三年前にニューヨークへ行った時、友人から聞いた話では未だに独身だという。
私の回りの男女で、一度や二度離婚の経験がない者は三割ほどしかいなかった。特にニューヨークの離婚率は非常に高く、男は離婚すると大体丸裸にされる。
私の飲み仲間の例を取ると、二万ドルぐらの年収(四十歳前後のアカウント・スーパーバイザー・クラス)だと、ニューヨーク郊外に五、六万ドル位の家がある。だが離婚すると家は女房のものになり、車も女房のもの、おまけに今までの生活レベルをくずさない程度の慰謝料(彼の場合は月額六百ドルぐらい、離婚した妻が再婚するまで払い続ける)と子供の養育費(月に二百ドルぐらい)を払う。家や車は女房のものになるが、ローンは彼が払い続けなければならない。そうすると、彼の手元に残るのは毎月四百五十ドル位になる。この金額は新入社員の給料とほぼ同じだから、酒代にもこと欠く。だから、早く別れた女房が再婚するようにと神に祈るのである。
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