我が英語渡世

第一章 ニューヨークは第二の故郷(ふるさと)

10-会長室に陣取るプードル犬こそ真のスポンサー

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 私の個人的なスポンサーで、クライアントのアーノルド・ベリカーズ社会長室には小さなプードル犬がいる。アーノルド会長夫妻には子供がいないので、何匹かの犬が子供がわりで、そのうちこのプードル犬だけが毎日出社する。

 会長室は大変広く、三十坪ぐらいはあった。長方形の会長室の奥の窓際にはディーン・アーノルド会長が座り、その前には小型の会議用テーブルがある。反対側には奥さんのベティーがトレジャラー(財務担当重役)として座している。彼女の隣りは大きな会議室になっていた。

 この大きな会議室はプードル犬の格好の運動場で、毎日、部屋の中を走り回っている。会長夫妻には悪い癖(?)があり、他人の人柄を判断するのに、この犬が吠えるかどうかで決める傾向があった。犬の嗅覚は人の良し悪しをかぎわけられると信じていたから、この犬にけたたましく吠えられると、会長の目には失格人間となるから大変である。AEでもアカウント・スーパーバイザーでも、この犬に吠えられると担当をおろされてしまう。とういうことは、失業を意味する。

 ボッブ・クライアーと私は、時々この部屋に呼ばれ、広告コピーのプレゼンテイションをしなければならなかった。私は幸いにして、時々会長宅に招待されていたので、この犬ともかなり顔見知りになっていたから、吠えられる心配はなかったが、ボッブの場合は大変である。

 彼はいつもポケットに犬用のビスケットを入れておき、会長室に呼ばれる時は、この犬に、会長夫妻にわからないようにビスケットをそっと食べさせる。特にテーブルの下でビスケットをやるのだから、文字通り「アンダー・ザ・テーブル・ディール」(テーブルの下で行なう取り引き)だ。要するに、犬にワイロを送るのである。

 ボッブは犬ぎらいだったが、失業しないためなら、ビスケット代ぐらい安いものである。大の男がプードル犬にビスケットをやりながら、犬の御機嫌を取っている図を想像してみるとよい。彼の苦労のほどがわかろうというものだ。

 だから、年二回ぐらい行なわれていたプレゼンテイションに誰を連れていくかは、犬好きか犬嫌いかできめなければならない。すなわち、真のボスはこの「ワン公」で、まさに「お犬様」の時代だったのである。

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