英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.23
著者 杉本 宣昭 
第二章 ニューヨークの素敵な仲間たち
日米間におけるビジネス観の違い-2

 そこで、いくつか具体例をあげることにする。

 読者諸君は学校(中学、高校、専門学校、短大、大学など)を卒業すると、社会にでて就職する。毎年四月になると新入社員たちが真新しい背広(たいていは濃いブルーか地味な色)を着て、道を歩いても、電車に乗ってもすぐにわかる。アメリカではこういう光景は決して見られない。

 なぜなら、日本企業は大量に新卒者を採用するが、アメリカの企業は毎年一回、大量に新卒者を採用したりはしない。わずかな人数のマネジメント・トレイニーを除いては、原則的には、有経験者しか雇わないからである。

 日本では新卒が入社すると、会社が適性を判断して、各部課へ配属するが、本人の希望など考慮されることはほとんどない。

 私の同級生のように、工学部を出て、経理へ配属され、以来、ずっと経理にいる者もいる。アメリカではエンジニア(工学部を卒業した者は全員エンジニアと呼ばれる)を経理に配属することなどありえない。非合理的だからである。

 新卒で採用される者でもアメリカでは、自分の専門分野に配属される、エンジニアならエンジニアリングの部門へ、会計学専攻の者は経理、財務の部門へという具合に。前述の広告代理店の場合はメイル・ルームへ配属されるが、未経験者の働ける場所は郵便物の整理ぐらいしかないからである。

 だから、アメリカでは、自分の進みたい道を決めたら、その方面のことを勉強しないと採用してもらえないのである。機能集団である企業に入社するわけだから、その中で、ちゃんと機能できる能力や経験が必要であることはおわかりいただけるだろう。

 部門によっては、未経験であっても、OJT (On the Job Training=実地訓練)で短期間にトレーニングできる仕事もある。セールスの仕事などはその部類に入るであろう。

 一方、多くの日本人は学校を出ると「会社」と呼ばれる「共同体」と縁組をする。結婚と同様に、多くの場合は一生の縁なのである。職業を選ぶというよりも、会社を選ぶのだから、入社後、どの部分に配属されてもたいして不平不満はない。

 入社後もずっと、配置転換は会社の意志で決められる。しかし、誰が考えても理不尽と思われるような配置転換は、適性か否かという理由よりは、共同体内の「和」が崩壊するという理由によって、そういうことはめったに行なわれない。

 また、エリート社員として採用された者は、将来の幹部として、いろいろな部門を経験させられる。オールラウンドな人間が幹部に最適と思われているからである。

 アメリカの企業では、自分の専門は決っているので、例えば、営業から人事、総務、経理などの部門へ配置がえされることはない。他の部門へ移りたいと思う人は、なんらかの形で、希望部門の専門知識を得なければならないし、そういう場合は、再度、大学へ行って勉強するのである。

 例えば、エンジニアーがマーケティングの部門に移りたければ、大学院でMBA(Master of Business Administration=経営修士号)を取得して、新分野に道を求めることになる。

 このように、人生の途中で、年齢に関係なく大学に入れるのはアメリカの良いところで、昼間勤めながら行けるように夜間の経営大学院もかなり多く、会社をやめないで学位の取得が可能なのである、

 アメリカでは会社はあくまでも機能集団で、生活の糧(かて)を稼ぎに行く場所で、個人生活の中心である自分の所属共同体は会社以外のところにある。しかし、日本人にとっては、少なくとも一家の主人にとっては、会社(職場)が自分の所属する共同体で、そこが生活の場である。だから、サラリーマンにとって、家とは寝に帰る場所ということになるのである。

 アメリカ人は退社時間がくると、みんなさっさと帰るということはよく知られている。だから、退社時間を十分も過ぎると、オフィスは空っぽになる。オフィスに残っているのはごく一部のお偉方ばかりで、彼等も一時間後には全員帰ってしまう。

 一方、多くの日本人サラリーマンは定時に退社することなどめったにない。私のいた外資系の会社(CJ社)でも、私がある時期から毎日六時頃(五時が終業の時間)退社し始めると、社長に散々文句を言われた。

 アメリカで、もし部下や秘書に残業させようと思ったら、その日の午前中に言っておかなければならない。若い女の子などは、デートの約束が最優先するから、残業させるのは大変難しいし、女房持ちの男性でも、女房と食事の約束でもしている日などは、上司の要請があっても「女房と食事の約束があるから」と言って、残業を拒否するぐらいである。もし日本の会社で同じことを言ったら、ぶんなぐられるのがおちであろう。

 反面、アメリカのサラリーマンは、勤務時間中に喫茶店でだべったり、昼間からパチンコ屋などで遊んだりはしない。もっともアメリカにパチンコ屋はないが。

 人間は通常一日八時間、目一杯仕事をすると、いいかげん疲れて、残業を月に四十時間も八十時間もできるわけがないのである。たまにやる三、四時間の残業ならいざ知らず、毎日、十三時間も十四時間も働けるものではない。毎日のように残業ができるということは、途中、適当に気を抜いているということにほかならない。

 昇給について日米比較をしてみよう。日本の会社では毎年四月になると、定期昇給と人事移動がある。よほどのことがないかぎり、全員、この時期に昇給する。だが、アメリカの企業では、日本のような定期昇給はない。アメリカでは、昇給は大体二年に一回ぐらいで、本人が会社と交渉しなければならないようになっている。労働組合(ユニオン)に加入している人たちは、組合と会社の契約によってしばられているから、組合の幹部たちが昇給を勝ち取ってくれる。しかし、非組合員は自分で会社と交渉して勝ち取るのである。

 この他にも、アメリカのビジネスで目につく特徴は多い。

 アメリカの企業では勤務効率を重要視するため、勤務時間中の私語をきびしく規制する。C社のロサンゼルス本社では、秘書たちの机の配置に工夫をこらし、私語ができないようにしている。一日二回のコーヒー・ブレークの時以外は、女の子同士の私語など聞かれないから、非常に静かである。

 アメリカのサラリーマンの楽しみは、最低一年に二週間はある有給休暇であろう。アメリカ人はみんな有給休暇を取る。しかも、まとめて、二週間とか一カ月という長い期間である。日本人にはとてもこんなことはできない。たとえ、有給休暇が三週間、四週間残っていてもである。

 私がニューヨークの広告代理店にいる頃、秘書の女の子たちは、毎年、休暇でヨーロッパへ遊びに行っていた。私などは休暇を取っても、金欠病という持病の持ち主だったから(毎日の飲み食いに収入の大半を使うために)、海外旅行などとうてい出来ないので、アパートで読書三昧ということになる。日本語の本をあちこちから借りてきて、二十冊も三十冊読んだ記憶がある。当時は日本語に飢えていたのである。

 アメリカにはジョッブ・ディスクリプション(job description=仕事の責任範囲を規定したもの)というものが使われる。どのような仕事にもジョップ・ディスクリプションが書かれ、これに書かれている仕事を忠実に実行すればよい。これに書かれていない範囲の仕事はいくら命令されてもしなくていいし、また、これに書かれている仕事ができなければ首がとぶ。

 しかしながら、日本の企業ではこんなものを必要としない。たとえ誰かが、ジョップ・ディスクリプションを会社のシステムに組み込んでも、誰も読まないだろうし、遵守されることもないだろう。すべては共同体の明文化されていない規律で動いているわけだから。もし、ジョップ・ディスクリプションをたてにとって、上司の命令(要請)にもかかわらず「それは私の仕事ではありません」などと言おうものなら、組織からはみだしてしまう。こんなものは機能集団には必要であっても、共同体には必要ないものである。

 日本の商社や海外と取り引きのある企業ではどういうわけか、英文のレター(日本文のレターでもそうだが)を海外に出す時は、部課長の名前で出されるが、書くのは大抵若い社員である。書き手がまちまちだから、それぞれ文章のスタイルが変化に富んでいるから、レターを受け取る方は面喰う。

 アメリカでは、絶対にと言ってていいほど手紙は本人が書く。手紙は個人の作品であり、それぞれ書き手によって個性があり、自分の知性、論理性、説得力などを相手に知ってもらうことができるのである。

 企業のトップは、書き手の文章力を見て、本人の能力やインテリジェンス(知性)を判断することが多いので、書き手は手抜きなどできない。だから、自分の手紙を他人に書かせることなどしないのが当り前である。


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