英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.26
著者 杉本 宣昭 
第三章 セールス、セールス、セールス
セールスマンは学生にとって最高のアルバイト -2

 一人は二十歳ぐらいの若い男の話である。彼は頭もよかったが、幼少の頃から聖書をよく読んでいて、下手な牧師よりも聖書の話をよく覚えていた。その上、天性の語り上手だった。

 YMCAなどの庭に立って、聖書片手に話し始めると、たちまち大勢の人が集まって彼の話に聞きほれるというほどで、本職の説教師もかなわない位に説教がうまい。彼が話し終わるころには、何人もの人が聖書を買っていた、という状況だった。

 アメリカでは、聖書の訪問販売は古くから行なわれており、昔のセールス・ピッチは「ご主人がおなくなりになったそうで、ご愁傷さまです。実はご主人が生前に注文なさった聖書を今日お届けにうかがったのですが……」というのが多く、相手をだます売りかたが典型的だった。

 彼は後には聖書のセールスだけではなく、他の商品も売り始め、一時期は大金を稼いでいた。彼の売りかたは特殊で、訪問先へ行っても商品に関してはいっさい何も説明しないで、神のみことばについて話をする。だがその家を辞する時には、商品も売っているという具合で、ほぼ百発百中の成績をおさめていた。

 このような売り方は邪道であるから、普通の人は絶対してはいけないことである。神様の罰があったのかどうか知らないが、彼はアル中になり、潰れてしまったという。

 もう一人のセールスマンはプロ中のプロといえる人で、三十代後半の美男子だった。日本へ行ったら映画俳優に間違われたと自慢していた、人あたりの良い白人男性である。

 彼は二年に一度、約六カ月間しか働かない。半年働いて十分稼いだら、あとの一年半は国外に住んで遊び暮すのである。女房、子供のいる男だが、このパターンを十年以上も続けていた。フランスの田舎に大きな邸宅を借りて住んでいて、生活費が底をつきはじめると、アメリカに帰ってきて、セールスマンで稼ぎ、一定の金額を稼ぐとフランスへ帰っていく。当時の一万ドルを目標にしていた。

 ヨーロッパは物価も安く、一万ドルもあれば、二年間は楽に暮らせたのである。私も彼を見ていると、自分でもできそうな気がして、サラリーマンを失敗したら、これで行こうと思ったくらいである。日本人の優秀なセールスマン諸君も、同じことができるのである。生活費の安い東南アジアとかスペイン、ポルトガルに住めば、二年に一回日本へ帰ってきて、セールスマンをやり、ガッポリ稼いで、またそっちへ帰っていく。夢のような話かも知れないが、現実に実行していた男もいるのである。

 学生にとって、セールスマンの仕事は自分の好きな時間に働けて、しかも、働く時間の割には収入も多いので、こんないいアルバイトは他にない。だから、楽をして儲けたい連中はみんなトライする。私もそんな連中の一人だった。

 だが、セールスマンぐらい難しい仕事もない。セールスのノウ・ハウ(実践的知識や技術)を習得するにはある程度時間もかかるし、強い意志と自己抑制力を身につけないと長続きしない。これが大変で、気の弱い人にはできない。私の知ってる限り、セールスマンをアルバイトにして学業を続けていた人たちは何人もいなかった。留学生では私一人だったかも知れない。


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