留学二年目に入った頃である。ある人に紹介されて、日系二世、ジョウディー・マルヤマの経営するメニフニ・ビルダーズ社のキャンバサーとして働くことになった。家の増改築の請け負い業者で、主な仕事は屋根のふきかえ、ペンキの塗りかえだった。
キャンバサーとは「注文取りに回る人」と言う意味だが、売るのはセールスマンの仕事で、キャンバサーの仕事は彼らにアポイントメント(訪問先との訪問日時の約束)を取ってくることだった。
日本語にはキャンバシングの適訳がない。私のやっていたことを簡単に説明するので、マーケティング的な定義はそれから判断していただくことにする。
アルミの屋根を売る場合は、ふきかえ(、、、、)時期にきている屋根を探さなければならない。大学の授業が終わると、バイクに乗って、あっちこっちの屋根を見て歩く。キャンバスという動詞には「詳細に調べる」という意味があるから、これが第一歩である。
次にふきかえ(、、、、)時期だと判断できる屋根を見付けると、その家の持ち主と気さくに世間話をするキッカケをつかむ。これがなかなか難しい。相手は警戒するから、相手がガードをかためない間に、相手に近づかなければならない。
「こんにちは、いい天気ですね」という具合に、ハワイの方言で話しかける。これがまた難しい。私は標準語しかしゃべれないし、標準語をしゃべると、地元の人間ではないことが一目瞭然だから、なおさら警戒され、「お前は何を売りにきたんだ」と言って、追い帰されかねない。
うまくタイミングをつかんだら、単純な世間話は早々に切り上げて、本題に入っていく。
「お宅の屋根はシック・バット・ルーフだが、最初にふいてから何年たちますか?」
シック・バット・ルーフとは、アメリカでもっともポピュラーな安い屋根で、厚いバット(ボロ紙・きれを細かく砕いて、コールタールでかためシート状にしたもの)である。表面にコールタールに含まれる油分の蒸発をふせぐために、太陽光線を反射させる小さい砂が塗り込んである。
「もう十二、三年はたちます」
「十二、三年もたつと、そろそろひび割れもでてきてますね」
「いや、でもまだあと何年かはもつよ」
「そうかも知れないが、どうせ二、三年後にはふきかえるのだから、今のうちからいろいろな屋根を検討しておいたほうがいいですよ」
というように、徐々にアルミの屋根へと話を持っていく。そして、今のうちにいろいろな会社から見積りを取ってじっくり検討したほうがよいと説得し、無料で見積りをだすからといって、奥さん共々在宅の日を教えてもらい、後日、約束の日にセールスマンをさしむける。その前に、私があたかも本職の屋根屋のごとく、その人の屋根の大きさを測定する。屋根の寸法、傾斜度、谷の場所などを図面に書込んで、約束の日を確約させて、仕事が終わる。