英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.32
著者 杉本 宣昭 
第三章 セールス、セールス、セールス
セールスマンにはコミッションがつきもの-2

 アメリカでは保険のセールスマンも収入がよいので有名である。新米の頃は収入も少ないが、年月をかさねると、あまり働かなくても累積した売り上げからのコミッションが大きく、ちょっとした財産をこしらえるのもそう難しくはない。

 私の友人で約十年前に渡米した女性がいるが、三年前にニューヨークで会ったら、彼女は保険のセールスをやっているという。それまでの仕事よりはるかに良い収入になったと言う。セールスの世界は要するに実力なのである。

 デパートの売子(店員)もセールスマンだから、コミッションが大きな収入源である。固定給もあるにはあるが、非常に低く設定されている。レストランのウエータやウエートレスの給料も同様に低いが、彼等にはチップというコミッションがあり、これが最大の収入源になる。

 デパートのセールスマンはお客の取り合いをする。最初に声をかけた者がお客を獲得するとは限らないが、とにかく売り込みには熱心である。自分で売り込んだ分やお客のほうから「これを下さい」とやってきた分も、全部自分のコミッションの対象になる。しかし、あまり露骨な売り込みをすると、お客に嫌われて逃げられてしまうから、気を付けないといけない。セールスマンと言っても、デパートの店員の場合はあまり大きな収入は期待できないから、年寄りの女性が多い。アメリカのデパートでは六十代や七十代の女性が店員になっているのが目立つのはそのせいであろう。

 日本人の観光客がデパートで買い物をすると、時々トラブルが起こる。日本人客はあまりしっこくされるのを嫌がり、最初にアプローチーしてきた店員をすぐに袖(そで)にする。しかも彼女がすすめてくれたものを、あとで手に取って、別の店員の所へ「これ下さい」と持っていく。そうするとあとが大変だ。最初にアプローチーした店員とオーダーを取った店員とケンカになる。アメリカで買い物をするときは、いやな思いをしたくなけなれば、気を付けたほうがいい。

 靴屋のセールスマンは特に商売熱心で、数年前にロサンゼルスで靴を買った時のことだが、留学中の友人二人(女性)に案内してもらい、カリフォルニア大学の近くのフロアシャイムという有名な靴屋のチェーン店へ行った。あいにく、トリプルEのサイズで私の足に合う靴がその店にはなく、ダウンタウン店にはあるから、そちらへ行くのなら連絡しておくというので、三人でダウンタウン店へ出かけることにした。

 私は一足しか買う積りはなかったのだが、この店の若いセールスマンが商売上手で、連れの女の子たちも退屈させないし、とうとう三足も買わされてしまった。うまく買わされてしまったが、楽しいショッピングでもあった。

 靴は今でもアメリカ製のものがいい。私のように甲高(こうだか)で横幅の広い足の持ち主には、日本では、自分に合う靴は安く手に入らない。私の足に合う靴はどういうわけだか輸入品だから、必要以上に値段が高くなるのである。

 アメリカには多くの異なる人種がいる。人口も日本の倍以上だから、その分だけ足も多い。足のサイズの種類も多い。だからサイズも沢山作らないと商売にならないし、市場が大きいから、多種のサイズを作っても採算がとれるのであろう。

 私は時々日本人のはいている靴を観察する。特にサラリーマン諸君のはいている靴に目がいく。なぜ靴を観察するかというと、靴は本当の貧しさ、豊かさをあらわすからである。ショーウインドーの中の靴は何も語らない。店頭に並べられた靴は十年前も二十年前も現在も美しい。だが、靴ぐらい、はいてみなければその良し悪しが分らないものはない。

 人々のはいている靴の姿を観察すると、日本の本当の経済的発展がわかる。日本人は見栄っ張りの人が多いから、人目につく個所には分不相応にお金をかける。洋服でも、月給十五万円の者が十万円以上もする仕立ての背広を着たりする。時計やカバンも高価なものを持つ。しかし、毎日はく靴となると、それに五万円も十万円もかける人は少ない。せいぜい贅沢をしても、一万〜二万円という人が多い。

 二十二、三年前の学生時代に気がついたことだが、当時の日本人のはいている靴とアメリカ人のはいている靴の差はひどいもので、アメリカ人の靴(GI達のものも含めて)を見るたびにうらやましくて仕方がなかった。とにかく品質がよく、長持ちし、しかもはき心地が良かった。私もアメリカの靴を手に入れてはいたからよく覚えている。

 日本人の足は、丁度私の足のように、横幅の広いのが多い。しかし、売っている靴はどういうわけだか、細身の物が多く、新品の靴をはくと、かならずくつずれ(、、、、)ができ、二、三カ月はくと必ず小指の所が突出して、いくらスマートに見せようとしても、小指の部分が横に突き出る。

 十三年前に帰国した時も、電車の中でしげしげと人の靴をながめて、日本も少しは豊かになったかなあと思ったが、着る物や自動車、電気製品の普及の割には、アメリカと較べてまだまだ程度が低いと感じたものである。そう感じた理由の一つが、この靴の観察によるものであった。

 二十数年前にはかかとやつま先に鉄片(すり減るのを防止するため)を打ちつけて、カチン、カチンと音をたてて歩く人がかなりいたが、さすがに十三年前にはあまり見かけなくなっていた。しかし、小指の部分の突出は相変らずで、先端が細くなっている新品の時(店頭に並んでいる時)はスマートで格好のよかった靴が、左右にくずれてしまい、「ああ、日本の豊かさもまだまだだなあ」と嘆息したものである。

 当時でも横幅の広い靴は日本製のものではほとんどなく、輸入品(特にアメリカ製の)ぐらいにしか見当らない。だから、しぶしぶ高価な靴を買っていた。

 さて現在はどうであろうか?これは読者諸君の宿題とすることにしよう。


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