英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.32
著者 杉本 宣昭 
第三章 セールス、セールス、セールス
アメリカ大手食品メーカーのセールスマン

 私がCJ社(アメリカ大手総合食品メーカーC社の日本の子会社)のマーケティング本部長に就任したのは三十二歳の時だった。ロサンゼルスの本社へ行った時、本社の大卒新入セールスマンに同行して、丸一日、彼と小売店回りをした。彼は二十四歳ぐらいのマネジメント・トレイニー(幹部候補生)の一人だったが、すでに妻帯していた。

 C社では、セールスマンのトレーニングはシステムがしっかりしているので、一カ月ぐらい実地訓練されると、あとは自分一人で仕事をすることになる。セールス・マニュアルがしっかり作られているので、マニュアルに書かれている通りに行動すればよいようになっている。

 セールスマンには、まずセールス・テリトリー(販売責任地域)が与えられ、その地域内の小売店(主に大型のスーパー・チェーン店)をスケジュール通りに回るのである。

 アメリカの大手食品メーカーは大型チェーン店や大型独立店とは直接取り引きをするので、中間に問屋は介在しない。日本では商社―一次卸し―大型スーパーという図式が一般的である。アメリカで問屋(wholesaler(ホールセイラー)とかjober(ジョベー))を使う時は、自社のセールスマンが効率よく回れないような地域に限られる。

 私と一緒に回った時、彼は身分はトレイニーだったが、すでに四、五カ月の経験を持った一本立ちしたセールスマンだった。彼の勤務スケジュールは、昼食時間を除いて正味七時間、週五日勤務である。大体夕方四時には仕事を終える。

 セールスマンは毎日会社に出社するわけではなく、オフィスに顔をを出すのは、多くて週に一回ぐらいで、朝の八時というのがほとんどだ。日本の営業マンのように毎日会社に顔を出し、夜遅くまで会社に残って仕事をすることなど、彼等には考えられない。

 スーパーは日本と同じように朝十時開店のところが多いので、最初に訪問する店には十時前には到着するようにする。十時前にもやるべき仕事が沢山あるので、自宅を出るのは八時頃になる。会社に用のある時は、八時には会社につくように家を出るから、もっと早くなる。C社の始業時間は朝八時だった。

 まず開店前の十分や十五分は車の中で、販促物などのチェックを行ない、開店と同時に店に入る。入口でショッピング・カートを引っ張りだし、それにブリーフ・ケース(航空会社のパイロットがよく持っているあの部厚い大型のカバン)を乗せて、それを開け、厚さ八センチぐらいのセールス・マニュアルのバインダーを取り出し、第一ページを開ける。

 そこには店内に入ってからやるべき仕事の手順が詳細に書かれている。身だしなみの注意などから始まり、商売道具(注文書、ホコリを払うためのブラシ、販促物のステッカー、チラシ、ポスター、特別割引のスケジュール表等)の点検、店内に入ってからの細かい行動の指示などが書かれている。ここに書かれている手順通りに行動する。決して自分勝手に行動しない。誰も見ていないのだが、仕事に慣れてきても、マニュアルを見て行動するように指示されている。

 C社は総合食品メーカーだから、乳製品、インスタント食品、肉類のカン詰、トマト商品、ポテト商品、ペット・フードなど多くの商品がある。店内を端から端まで順番にショッピング・カートを押して、自社商品のおかれている棚のところに行き、ラベルの向きを正しい方向に直したり、ホコリを払ったり、奥のほうから商品を前に出したり、隣りにスペースが余っているとそこに自社商品を置いたり、ラベルのはがれたものやカンがへっこんだ不良品などを棚から取り除いたりする。

 自社商品に割り当てられた棚のスペースが空いていると、他社のセールスマンがそこへ自分の商品を突っ込むので、そうさせないように、奥の倉庫へ行き、自社商品のカートンから必要量を取り出して空いたところへ補充する。

 セールスマンにとって棚のスペースほど重要なものはない。いかに広い棚を確保するかはセールスマンの腕にかかっている。いくら広告しても店頭に商品が並んでいなければ物は売れないし、大きい棚のスペースを取れば、商品がよく目立ち、売り上げに大きな影響を与える。

 これら一連の仕事が終わると、フロアー・マネジャー(それぞれのセクションの長で、係長ぐらいの地位)に面会を申し込む。フロアー・マネジャーに諸々の報告をし、不良品に対して小切手を切り、次の商談に移る。


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