主な商談は、新製品のプロモーションとか、既存の商品のディスカウントの話である。全商品のディスカウントの条件や日程が印刷されているスケジュール表をマネジャーに見せながら、山積みなど商品大量陳列の具体的な話をする。最後に個々の商品の注文を取り、注文書のコピーを渡して次の店へと移動する。
これらの仕事を一時間以内にすませる。次の店に行くにも、時間との競争である。日本の営業マンのようにダベって時間を無駄にしたり、喫茶店で時間を潰したりはしない。七時間以内にやるべきことを全部やりおえて、出来るだけ早く帰宅する。
この日は私と一緒だったので、昼食に一時間を費やしたが、通常はレストランなどで食事はせずに、車の中でサンドイッチを食べるだけで昼食時間も仕事をするのだという。
帰宅すると、まだ報告書かきの仕事が残っているので、三十分から一時間かけてボスへの報告書を書き上げ、注文書と同封の上、郵送する。これで一日の仕事が終わるのだが、これを日課として遺漏なく行なうのは大変難しい。
個人の時間を大切にするアメリカ人の典型、勤勉の代表選手のような男だった。とにかく仕事に無駄がない。私が一緒だったから特に身を入れて仕事をしていたようでもなかったが、やはりいつもよりも少しは一生懸命やったのであろう。
フロアー・マネジャーから声をかけられると、喜んで棚卸しの手伝いをするという。月に一、二回だが、朝の四時ぐらいからジーパンをはいて手伝いに行くのだそうで、商品を一回全部棚からおろし、再度並べなおす仕事だから、大変な力仕事だ。店のフロアー・マネジャーと一緒に汗を流すことによって、人間的なつながりを作ろうとする。
朝四時から仕事を始めるのだから、昼前には仕事を終える。早朝の棚卸しを手伝ってもらうと、人情として相手に良い棚を与えたり、棚も多少広くやったりすることになる。セールスマンもこういう努力をして、自分の成績をあげる。
日本人は長時間働く人が多い。しかし、一日中割合にだらだらと仕事をしている場合が多い。工場では機械が動いているのでそうはいかないだろうが、事務系の人はだらだらと長時間働く人人が多い。彼のように息つく暇もないほど働くと、一日、八時間以上はとても働けないものである。
アメリカ人よりも日本人の方が勤勉であると言う人が多いが、アメリカ人の勤勉さは仕事を長時間やることではなく、勤務時間中に密な仕事をすることに見ることができる。
日本の食品メーカーの営業部員にとっては、自分の受持ち地域がどこになろうと、給料には関係がない。アメリカではセールス・テリトリーの分割は大変重要なことで、マーケティング戦略の大きなポイントになり、不公平のないテリトリーのアサインメントと勤労意欲をそそるようなコミッションや種々の役得(車の支給などの)の設定が必要になる。良いテリトリーを与えられるセールスマンは必然的に収入がよくなる。
大体、新入りにはあまり良いテリトリーが与えられない。そういう難しいテリトリーで頑張り、成績を上げると、出世が早くなる。ここでうまく行かないと、収入も少なくなり、気落ちして、脱落していく。
C社の極東担当副社長は上司であると同時に親しい友人だった。彼が入社したての頃の思い出を一杯やりながらよく話してくれた。まずひどいテリトリーを与えられて、「さあ売ってこい」ということになるのだそうだが、当時のセールスマンのガソリン代は現金で支給されず、商品の現物支給で、毎日その日のガソリン代金分の商品をもらい、車のトランクに入れてセールスにでかける。
ガソリン代がわりに支給される商品はあまり売れないものや、自宅へ持って帰っても人間が食べられないような犬や猫の餌である。だから毎朝最初にすることは、この商品を売って現金化することである。当時は大型店も今のように多くなかった頃だから、マニュアル通りに行動すればよいというわけには行かず、各小売店にセールスマンは売り込みに行く。小売店の中には現金で仕入れる店もあり、そういう店は値切るのもうまい。しかし、少々安く値切られても現金化しないと、ガソリン代は自分持ちになるから大変である。
これを売り残して家へ帰ると、女房にこんなもの家では食べられないと文句を言われるし、店のほうでもこのことはうわさに聞いて知っているから、店側も足元を見る。これが毎日だから、日増したセールスマン根性ができあがってくる。
このようにたたき上げられたセールスマンは、どこへ行っても通用し、一生メシの食い上げにはならない。まさにアメリカはセールスマンの国なのである。