百十五人を二つのグループに分け、一つは消費者用商品(コンシューマー・プロダクト)グループ、もう一つは工業用製品(インダストリアル・プロダクト)グループ、私は前者のグループに属した。だから、インダストリアル・マーケティングが専門のコーリー教授の講義は一、二回しか受講しなかった。
ケース・スタディーとは、一つの会社のある問題を取り上げて、分析の対象となる数字やデータ、諸々の事情を書き上げたものである。これらケースの一つ一つを全員でディスカッションするのだが、議論百出してなかなか面白い。講師はこれをうまく結論へと導いていく進行係のようなもので、ところどころで専門的なコンセプトや用語の説明をしつつ、最終的な結論へ到達するのである。
実際の結果がどうなったか、正しい状況の分析も講師だけが知っている。最後に講師がすべてを発表するのだが、意外と予想しなかった結果が多く、我々の即席的な判断能力もたいして当てにならないことがよく分った。
エイボン化粧品のケースなどはその典型で、その結論などは誰も予想しえなかった。エイボン社は世界最大の化粧品メーカーで、ドアー・トゥー・ドアーの訪問販売を専門としている。一九六九年頃の話が主題だから、現在は多少違ったマーケティング戦略を採用しているかも知れないが、マーシャル教授はこの会社の成功の秘密は、誰が本当のお客様かを見きわめたことにあるという。
我々は常識的に最終的に商品を買ってくれる消費者が本当のお客だと思いがちだが、エイボンの場合は、驚いたことには自分の所の「セールス・ウーマン三十五万人」が本当のお客様だというのである。コミッション制のセールス・ウーマンたちがもっとも重要なので、すべての販売(営業)努力は彼女たちにいかに商品を買わせるかというところに向けられる。
毎年四十五パーセントのセールス・ウーマンたちがやめる。三十五万人の二十五パーセントから総売り上げの七十五パーセントが得られるという。
若い女性よりも中年の女性のほうを好んでセールス・ウーマンとしてリクルートする。エイボン・レイディーになることにより、交友関係が広がり、退屈な家庭の主婦から脱却することに楽しさを見付ける人が多いという。知らない人に会っておしゃべりをし、その人との交際を広げることに意義を見い出すわけである。
彼女たちが毎年一回、ニューヨークで開かれる大パーティー(盛装で夫妻そろって参加)に出席できる権利を獲得するためには、ある一定以上の売り上げを達成する必要がある。そのためには自前で注文を出し、商品が売れ残ろうがどうしようが関係ない。このパーティーに出席するためには、なんとしても売り上げを確保しようとする。だから毎年、売れ残りの商品を自前でかかえる人が多いが、結構、クリスマス・プレゼントや誕生日のプレゼントなどに使えるから、商品の処分にはあまり困らないらしい。
このパーティーは超一流の芸能人が司会をしたり、一流のショーが見られたりするように企画される。めったに盛装して(男はタキシード、女性はイヴニング・ドレス)出席できる機会を持たない一般大衆にとっては、彼等のエゴをくすぐるプロモーションである。
日本でも盛装で参加するパーティーを商売ベースでするぐらいだから、洋の東西を問わず上流階級の儀式にあこがれる人たちが多いのだろう。この辺をうまくついたプロモーションが大きなマーケティング戦略になるのである。