英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.39
著者 杉本 宣昭 
第三章 セールス、セールス、セールス
ブランド差別化スケール-2

 マーシャル教授自身が一九六九年に書いたマーケット・シェアー争いのケース・スタディーも興味深いものだった、

 大手総合食品メーカー、ゼネラル・フーヅ社(GM社)のレギュラー・コーヒー(荒挽きのコーヒー)、マックスウェル・ハウスというブランンドとコーヒー専門メーカー、J・A・フォルジャー社(F社)のフォルジャー・ブランドのシェアー拡大戦争を取り上げたケースである。

 フォルジャー社のFブランドはシカゴ以西の西部地区で強く、他の西海岸ベースのブランド同様、赤い缶に入っている。

 一方、GM社のマックスウェル・ハウス(MH)ブランドは青い缶に入っている。MHブランドは東部では圧倒的なシェアー(約三十パーセント)を持っているが、西部地区でのシェアーは五〜六パーセントというところだった。

 F社は同族会社で、かねがね東部市場でのシェアー拡大を狙っており、その当時、東部のMHの地盤へ激しくなぐり込みをかけていた。東部と西部の境界にあるシカゴ市場では強力なマーケティングを展開していた。

 GM社のほうも、かねがね西部市場のシェアー倍増を狙っていたので、西部地区へ強力なキャンペーン(広告・販売促進(アドヴアタイジング ブロモーション))を展関しはじめる。F社の地盤、西部地区へのなぐり込みである

 シェアー拡大戦争の詳細は割愛するが、F社がGM社の倍以上の広告・販促費を投入することにより、この戦争に勝つのである

 なぜF社が勝ったかと言うと、F社の会長はオーナー経営者、GM社のトップはサラリーマン会長や社長で、この違いが決定的な要因だったのだ。

 GMのトップは、どうしても、株主に対して利益を確保しなければならない。そのため、いくら戦争だといっても、いくらでも経費を投入できるわけではない。「利益を出せる範囲内で」という手かせ足かせがはめられる。

 一方、F社のほうは同族会社だから、会長がオーナーである。「シェアー戦争に勝つ」と決意さえすれば、赤字をだしても誰も文句を言わないから、マーケティング経費を徹底的に投入できる。そのため、F社はこのシェアー拡大戦争に大勝したのであった。

 シェアー拡大はできたものの赤字になったのだから、どこに利点があるのかと、読者諸君は思うだろうし、私もその時は同様の疑問を持った。しかし、F社の会長にとっては大成功だったのである。なぜなら、シェアー拡大をしたお陰で、P&G社(Proctor & Gamble)により高い値段で自分の会社を売ることができたからである。

 十数年前の金額だが、会長が手にした金額は、税引き後の手取りで、一千八百万ドルにもなった。一ドル三百六十円の時代だから、約六十五億円である。現在の価値でいうなら、百何十億円だろう。大成功なのである。

 もう一つの興味を引いたケースは、スクリプトー・ブランドのボールペンとビック・ブランドとの戦いである。

 スクリプトー・ペン社は吸収合併(一九五六年)されるまではスクロール・ペン社というイギリスの会社であった。本社はアメリカのジョージア州アトランタ市にある。

 ビック・ペン社はフランス最大のボールペンのメーカーで、一九五七年、イギリスのバイロ・スワン社(当時・イギリスでは最大手のボールペン・メーカーでシェアーは約四十五パーセント)を吸収合併していた。ビックのボールペンは日本でも有名だから、読者には説明する必要はないだろう。使い捨てライターも日本で沢山売られている。

 ビックは低価格品の市場では、フランスは勿論のこと、全ヨーロッパを制覇しつくし、彼らの猛烈なマーケティング作戦、シェア拡大作戦の前には、スクリプトーも手も足も出せず、ブルドーザーで地ならしされるがごとく敗退してしまった。

 二十パーセント以上のシェアーを持っていたスクリプトーのボールペンも、高級品の市場セグメントでしか、ボールペン・メーカとしての余命をとどめることが出来ず、最終的にはボールペン市場から完全撤退してしまった。

 アメリカ市場もビックのブルドージング(bulldozing)にあい、日本だけが、このビックのブルドーザーで地ならしされなかった唯一の市場だと言われている。これはマーケット・セグメンテイションの一つの好例で、大量に売られる低価格品市場では、強大な企業の掃討作戦にあうと、他のメーカーの生き延びるセグメントは高級品(高価格品)の売られる小さな市場しかないというよい例なのである。

 スクリプトー社はボールペンから使い捨てライターの市場に参入して成功するのであるが、この市場でもビックの参入により、痛手をこうむるのである。

 ビックのように強力なマーケティング力を発揮する会社として、世界的に最も有名な会社が前出のP&G社で、日本でも洗剤の「全温度チアー」はよく知られている商品である。

 あと二日でMMPも終了するという七月一日の夜、東京の女房から電話がかかってきて、父がガンの手術を行なわなければならないので、長男の私に医師が帰ってくるように要請しているという。あと二日で終わるから、手術は三、四日延ばせというと、そうはいかないと言う。

 大慌てで、翌朝の飛行機でロサンゼルスへ飛び立ち、本社に寄って仕事の打ち合わせをするのだが、身体がふるえて仕事にならない。早々にホテルへ帰り、一泊して、翌日、羽田へ向けて出発した。

 羽田に着くと、自分の持っているスーツ・ケースは女房に渡し、着替えの入った別のボストン・バッグを受け取り、飛行機で大阪へ行き、最終の新幹線にぎりぎりで乗り継ぎ、零時ちょっと前に広島駅へ到着した。

 タクシーで日赤病院へ着いた時はすでに手術は同日午後二時に終わっていて、医師はあと三カ月の生命だと言う。暑い短かい夏であった。残暑のきびしい九月、医師の予測通り、父は五十九歳の生涯を閉じたのである。


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