英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.49
著者 杉本 宣昭 
第五章 ハワイ留学、英語とマーケティング修業
落第するとヴェトナム戦争最前線に送られたアメリカ人学生

 学校の成績はどこの国でも重要だが、及第するか落第するかは、アメリカ人学生には、特に健全な肉体を持つ男子の学生にとっては「生か死」の問題だった。前出のアーン少佐の戦死でもよくわかるように、当時はヴェトナム戦争たけなわの時代だから、今はなくなったアメリカの徴兵制度も顕在だった。

 フルタイム・スチューデントの資格は学生ビザの確保には不可欠なものだが、この資格がなくなってもアメリカを追い出されるだけで、ヴェトナムなどはヴェトナム人留学生以外には関係のないことだった。しかし、アメリカの市民権や永住権を持つ男子の学生の場合は、フルタイム・スチューデントにのみ徴兵猶予が与えられるが、フルタイム・スチューデントでなくなったり、退学させられると、すぐに召集令状が舞い込んでくる。日本でいうなら戦前の一銭五厘の赤紙がくるのである。

 ハワイ大学では、一年生が終わる頃には約六割が退学になる。身体に欠陥のない男子の学生は、退学になると二週間もしないうちに召集令状がきて、軍隊に入隊する。召集兵は数カ月間の初年兵教育を内地で受けて、必ずといってよいほどヴェトナムの最前線に送られるのである。

 他の大学と同様に、ハワイ大学のシステムでは、最初の学期に平均点二・〇ポイント以上を取らないと、次の学期はプロベーション(仮及第)になる。プロベーションとは、仮出獄(probation)と同じようなもので、仮出獄中は品行方正にして、点数を稼がないと、監獄に逆もどりになる。だから、次の学期は前学期の分を挽回しなければならない。前期・後期を合わせた成績が二・〇ポイント平均以上にならなければ、自動的に退学させられる。次に待っているのは、鉄砲玉の飛んでくるヴェトナムの戦場で、男子の学生にとっては深刻な問題だった。

「二・〇ポイント平均」とはどういうことか簡単に説明してみよう。アメリカの大学の成績はA・B・C・D・Eの五段階になっている。日本式優・良・可・不可に分けると、A・Bが優(A=九〇点以上、B=八〇点以上)、Cが良で六〇点〜七九点の間で、教授によっては七〇点〜七九点と厳しい人もいた。Dが可で、Eが不可ということになる。

 一単位につきA=四・〇ポイント、B=三・〇ポイント、C=二・〇ポイント、D=一・〇ポイント、E=〇という計算になる。

 二・〇ポイント平均、C平均にするには、毎学期D一個取るとBを一つ取らなければならない。Eを取るとAを一つ取らないとC平均が保てない。私が卒業した時の最高平均点保持者が三・八ポイント平均だった。これはほとんどAでBがいくつかというような学生の点数で、全卒業生中の首席である。

 前述のように一年の終わりに六割が退学になり、二年の終わりには残りの三、四割が退学になる。私のいた経営学部でも一年生から四年生を全部集めると二、三千人は学生がいたと思うが、卒業する人数はどういうわけか、毎年約百五十人、春に卒業する学生が三十人ぐらいと六月に卒業する者が百二十人ぐらいであった。

 退学になり、軍隊にとられた連中は、必ずといってよいほどヴェトナム戦争に送り込まれる。しかし、志願兵の場合は任地の選択が許されており、日本や西ドイツに駐留することが可能だった。志願兵は自ら望んで入隊するのだから、「うい(、、)やつじゃ。希望する所へ行かせてやろう」ということになる。一方、召集兵は大抵の場合、大学の落伍者で、戦争に行きたくないから大学に行き、徴兵猶予の特典を享受していたにもかかわらず、学問をおろそかにして放り出された「軟弱者め」ということになり、根性をたたきなおすために、「全員戦場送り」ということになる。

 ヴェトナムでは、召集兵の戦死率は志願兵の戦死率の二倍だったという。好きで戦争にいくやつは鉄砲の玉のよけ方がうまく、召集兵はいやいや行くのだから、玉のよけ方が下手でよく死ぬのだと誰かが言っていた。

 日本の大学のように、一たん大学に入学すればほとんど落第・退学などもなく、心太(ところてん)のごとく卒業させてくれるところと、入るのは割合やさしいが、入ってもなかなか卒業させてくれないところでは事情も違ってくる。おまけに男子の学生にとっては「生死の問題」にもなるわけだから、ハワイ大学のように退学者の多い大学に入るのはあとが大変なのである。

 これから留学しようとする人たちもこの点に留意して、大学の選択をすると良い。大学、特に私立の大学によっては、なるべく全員卒業できるように、学校側が家庭(チユーター)教師をつけてくれたりする学校もある。そういう大学を選ぶのも得策だろう。


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