英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.56
著者 杉本 宣昭 
第五章 ハワイ留学、英語とマーケティング修業
学費を稼ぐ夏休み―パン屋とホテルのバス・ボーイ

 渡米前に「夏休みに目一杯働けば一年間分の学費と生活費を稼ぐことができる」という話を聞いていたが、聞くとするのとでは大違い。アラスカに行って土方をやり、二千ドルも残してきた奴もいるにはいたが、例外中の例外であった。私のような凡人には、そこまでやる知恵も勇気もなかった。

 夏休みは留学生にとって天国だ。成績の心配をすることもないし、いくら働いても移民局につかまることもない。成績のいかんにかかわらず、何十時間働いても、すべて合法なのである。

 六月中旬から九月中旬までの三カ月間は、猛烈に働いてお金を貯めればよいのである。さあ、一年分の学費と生活費を稼ぐぞ、と意気ごんだのはよいが、そううまく良い仕事が見付かるわけではない。お金を貯めればよいと口では簡単にいうが、貯らないのがお金というもの。どうも稼ぐ能力と貯める能力とは全く別物であるらしい。

 最初の夏休みは、パン屋とホテルのレストランでバス・ボーイをすることになった。午前中はパン屋で、夕方からはホテルでのアルバイトが始まった。

 大学からあまり離れていないサウス・キング・ストリートに沖縄県出身のタイラ一家が経営するキングズ・ベーカリーが今でもある。私の住んでいた寮のすぐ近くだったから、歩いて五、六分の所だった。

 最初の学期(春の学期)も無事終わり、成績もまあまあだったから、気分的にも最高であった。キングズ・ベーカリーの仕事は早期の四時から十一時半までであった。三時半に起きて、シャワーを浴び、眠気をさまし、人通りのほとんどないまだうす暗いサウス・キング・ストリートを歩いてベーカリーに行く。

 最初に作るのはドーナツだった。揚げたてのドーナツを手でつまみ上げ、粉砂糖をまぶしたり、グレーズド・シュガーに浸したりするのだが、油で揚げたてのドーナツの熱いこと、熱いこと。もちつきの時も熱かったが、ドーナツもまた負けず劣らずに熱い。

 ドーナツが終わるとあんパン(、、、、)作りが始まる。ハワイで「あんパン」のような日本的なパンを作る仕事をするとは夢にも思っていなかったのだが、簡単だし、結構おもしろかった。要領はあんころ餅を作るのと同じだから、一度も失敗することはなかった。

 これが終わると食パンを焼き、スポンジ・ケーキ(カステラのようなもので、ケーキの台となる)を焼き、難しいバター・ロールの番になる。本職のパン屋のような仕事はこれだけだったが、うまく作れるようになるには、少々時間もかかったし、失敗作もでてくる。一人前のパン職人のようにロールピン(めん棒)でパン生地を仲ばし、バターやショートニングを生地の上に乗せ、手の平で押し潰し、生地を四つ折りにたたんでは、ロール・ピンで押し伸ばす。バターやショートニングがとけないように手早くやるのがコツで、三カ月もやるとかなりうまくなっていた。

 この時期はボッブ・タイラの妹さん(当時ハイスクールの先生だった)も夏休みだから手伝っていて、仕事をしながら、いろいろな話もした。話はいつしか日本での差別問題に移っていき、いかに沖縄県人が差別されたか、と彼女が激しく議論し始める。鹿児島県人などはいくらか偏見を持っているかも知れないが、広島や東京などではそんな偏見など誰ももっていないと思っていたから、私もいきおい反論することになる。

 こういう話をしているうちに時間が過ぎて行き、十一時半になると、コーヒー・ショップへ行って昼食を食べ、寮へ帰って夕方までひと眠りする。自分の作った焼きたてのバター・ロールほど美味(うまい)ものはない。昼食には、これをかならず食べたものである。

 夕方六時からはワイキキの浜辺側にあるモアナ・サーフライダー・ホテルのレストランでバス・ボーイの仕事が始まる。当時は今ほどホテルの数もなく、夏はどこのホテルも満員だった。

 このホテルはワイキキのもっとも中心部にあり、かなり古いホテルである。ビーチから裸足で入れる中庭があり、大きなバニヤン(ベンガル菩提樹)の古木が大きな枝を広げ、格好の木陰をつくり、日中でもこの木の下のテーブルに坐るとかなり涼しい。ここは昔、ハワイ・コールというラジオの番組が生中継された所で、今でもハワイで一番好きなホテルだ。

 ここのメイン・ダイニング・ルームで仕事をするのだが、夏休みの最もお客の多い時だから、メチャクチャに忙しい。バス・ボーイは四人いて、全員ハワイ大学の学生である。私の他は、日米混血のラルフと他の二人は白人だ。


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