英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.59
著者 杉本 宣昭 
第六章 英語屋転業の記−ふたたび日本
サラリーマン廃業の記

 一九七一年に帰国して、翌年には外資系広告代理店M社に再就職し、またサラリーマンに戻った。このM社も二年三カ月でやめ、日本に新しく設立された日本カーネーション社(アメリカの総合食品メーカー・カーネーション社の百パーセント子会社)のマーケティング本部長として転職した。三十二歳の時である。

 前年末に停年退職したH氏と二人でスタートさせた会社である。こう言えば格好がいいが、要するに二人が最初の雇われ人であったということである。私がマーケティング全般を担当し、彼が財務・総務部門を担当していた。

 一九七四年夏にスタートしたこの会社も、その年の末までは男三人、女三人の所帯で、私の下に営業部長以下、東京・大阪の両営業所長、その下に課長二名と資材課長が入社したのは正月の休み明けであった。

 K氏が社長として入ってきたのは、会社がスタートして約一年が過ぎた頃であったと記憶しているが、K氏との出合いが私のサラリーマン生活に終止符を打つきっかけとなった。

 K氏は某大手製紙会社の資財部出身で、コンシューマー・パッケージド・グッズ(消費者用の包装された商品)の経験は皆無、マーケティングはまったくの素人だった。停年まぎわの五十代なかばで、幼少の頃、アメリカで過したことのある人だから、英語はかなり堪能であった。当時代表取締役であった本社のアシスタントVPのL氏が昔CIAに勤務していた頃(CIAをやめたあとかも知れない)借りていた家の家主で、L氏が非常に親しくしていた人である。

 上流の出身で一人息子、政財界にコネの多い人だから社長に適任だとL氏が言うので、私に否やはない。しかし、ここに書くのもはばかられるような汚ない手ぐらい平気で使うような権力志向の男であったことは確かである。入ってくるなり、私をおさえようといろいろ手を打ってきた。

 CJ社が設立される前は、三井物産が総代理店としてC社の商品を輸入販売していたが、子会社の設立で商権の問題が発生するのは目に見えている。私は本社から利益を上げろと言われ、そのためには輸入コストを下げるか、値上げをするか、でなければ、中間マージンを減らす以外に手がなくなってくる。結局は、今まで三井物産が手にしていた利益をこっちにもらう以外に手はないと判断した。

 K氏とは対立することになり、私は本社の極東担当副社長S氏を擁して、本社=株主に忠誠をつくす派閥の長となり、K氏は三井物産と手を結んで物産の利益を守る側にまわる。二十人ほどの会社で派閥が出来るのだから、おかしな話である。

 K氏は代表取締役だけ(、、)が株主に忠誠を誓えばよいという。本社の副社長は、彼も私も株主に対して忠誠を誓い、株主の利益のために働けという。アメリカでこういうビジネス・フィロソフィーを植えつけられた私には当然のことだから、「お前は株主に忠誠を誓う必要はない。社長の言う通りにやれば良い」と言われても、自分の信念は死んでもまげないという私とは、どうしても対立してしまう。

 K氏は、「CJ社は日本の法人である。毛唐の利益を代表するものではない。日本の国益になるように経営すべきだ」と言う。

 元予備学生の海軍将校だったK氏にはしごく当然の発想かも知れないが、これは大変危険な思想である。資本主義の世界で資本家の主権が侵されると、海外への資本投資などはこの世界からは消えてしまう。孤立主義、保護貿易が進行すると、日本などはすぐに倒産してしまうであろう。


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