英語発音ならスギーズ! ◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世◆スギーズの英語人生、英語教材開発への情熱、ニューヨークでの生活の様子などをご一読下さい
◆ 連載小説 ☆ 我が英語渡世 ◆
VOL.75
著者 杉本 宣昭 
第六章 英語屋転業の記−ふたたび日本
あとがき

 私の半生は英語と「おてて、つないで、野道を行けば、……」であった。それが良かったかどうか、残り半分が終わるまでわからない。

 英語は単にコミュニケーションの手段ではない。人造語のエスペラント語や、死語と化したラテン語とは違う。英語は生きている。それは話す人たちの文化と一体だからである。

 英語と言っても、アメリカ語もあれば、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語もあり、南ア連邦、インド、パキスタン、バングラデッシュ、フィリピン、シンガポール、ミクロネシア諸島、西インド諸島の国々、本家のイギリス、スコットランド、ウェールズ、アイルランドで使われている英語もある。

 一口に英語と言っても、これらの人種も文化も違う人たちによって使われている。これほど文化的背景の異なる人々に使われている言語も珍しい。

 英語を「学ぶ(スタデイー)」ことと英語を「覚(ラーン)える」ことは別のことである。「学ぶ」というと、どうも、学問的に言語としての構造などをいじくりまわすという感じがする。だが、英語を覚えると言うと、しゃべれるようになることである。

 英語を覚えると、それを話す人々の文化も同時に吸収する。文化ぬきで英語を覚えるのは大変難しい。英語とそれを話す人々の文化とはパッケージ・ディールになっているから、単語と文法さえ知っていれば、英語が話せるようになるというわけにはいかないのである。

 イギリス語を覚えれば、イギリス的な価値観の影響を受けるし、私のようにアメリカ英語を覚えた者は、アメリカ的な物の考え方が身についてしまう。そのため、私の内部で、両方の文化がいつも内部摩擦を起こしている。

 価値観の違う日米両文化を比較するわけだから、大変である。ことあるごとに、私は「どっちが正しいか?」と両方の文化に責められる。どちらかに軍配をあげればあげたで、審判ミスだと言って片方がくってかかる。

 日米間の文化や物の考え方、価値観、宗教などの違いに関しては、心理学でいうアンビヴェイランス(反対感情両立)を持つことになる。同一の対象に対して愛憎を同時にいだくようになる。

 留学仲間でアメリカの市民権を取得して、アメリカ人になった者もいるし、私のように「どうしてアメリカの市民権を取らないのか?」とアメリカ人に聞かれれば、「日本人をやめる理由はどこにもない」と、答える者もいる。アメリカに来る者はみんなアメリカ人になりたいはずだ、と多くのアメリカ人は思っているから、こういう質問が出るわけだが、イギリス人なら同様の質問はしないだろう。我々も外国人に「どうして日本人にならないのか?」などと聞かないだろう。

 私がもっとも大きな影響を受けたのは、個人主義的な物の考え方である。我々の価値観とアメリカのそれとは油と水の関係なのかも知れない。

 あの実力の世界であるプロ野球の世界でも、個人プレーは許されない。ましてや会社や役所のような組織ではなおさらである。しかし、アメリカでは、誰でも自分を前面に押し出そうとする。

 私はアメリカ映画が好きだが、その最大の理由は、個性の強い、自分の感情を無理におさえないで、個人プレーに徹する一匹狼が主人公として多く出てくるからである。マヴァリック(所有主の焼き印を押していない子牛を意味する語で、一匹狼という意味に使われる)が主人公になる映画を見ると、ひとりでに心がおどる。自分の価値観で行動する正義(マヴアリツク)の男にあこがれる。マヴァリックは私の大好きなことばなのである。

 チャールズ・シュルツの漫画「ピーナッツ」の主人公、チャーリー・ブラウンは私の好きなタイプである。日本では彼の飼犬のスヌーピーのほうが有名だが、あの好人物、チャーリー・ブラウンこそ、私自身だと思っている。

 私は太平洋戦争開戦一ヵ月後に満州で生まれ、昭和二十一年に日本へ帰ってきた。大陸生まれのせいか、どうしても日本という殻(から)だけにとじこもっていられない。そのため、目が外のほうへばかり向く。外をよく見て、今度は内を見ると、いろいろ意見や文句を言いたくなる。

 日本に対する愛情をなるべく抑えて、なるべく客観的にコメントしようと努力するのだが、これもなかなか難しい。日本の悪口を言ったり書いたりしていると人は思うらしい。愛情をいだいている相手のことを「あのバカガ」などと言うのと同じなのである。

 日本は外交下手だとよく言われるが、まさにその通り。どうも比較文化の知識が、日本人には足りないらしい。日本人の持っている価値観が人類普遍のものだと考えているきらいがあり、アメリカ人の価値観と大きな違いがあるなど想像もつかないらしい。

 私も勉強不足で、アメリカ人のことは多少わかっても、他の国の文化には無知だと言ってもよい。特にお隣りの韓国や中国、その他東南アジアの国々に関しては何も知らない。

 陳舜臣氏や山本七平氏、渡辺昇一氏、小室直樹氏らの著書には教えられることが多い。日本の文化、日本人の思想、我々の持つ価値観の根源を我々一人一人が認識し、異文化のそれと比較対象することは、国際化していく日本の将来にとって、重要な役割りを果すと確信している。

 本書の出版にあたって、ぱる出版には大変お世話になった。また、田原道生先輩には、特にていねいな御指導を受けた。心から感謝の意を表したい。教文館の草薙俊夫氏にも本書を出版する上でいろいろとアドヴァイスをいただき、大変ありがたく思っている。

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我が英語渡世は、これで終わりです。長い間、ご愛読ありがとうございました。


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